2018年10月07日

On the line:勇気を出して(1996年)

※タイトル訳はオリジナル

歌詞だけ知っていた。良い曲だといわれていたから読んでみた。
そしてその「攻撃的」な内容にちょっと驚いた。
歌詞だけ見ているとこれは完全に「闘う」曲。
その彼らしからぬ言葉遣いにちょっと混乱したのがこの曲との出会い。

さらにそれがメロディーにのると、当初の歌詞から受けていた印象とはまた違ったイメージを受け取る。
さて、これはなんなんだろう?どんな思いで、彼はこの言葉をつづったのだろう?
彼の思いを、精一杯受け取るならばOn the lineはこの国の、どんな言葉を想起すればいいのだろう?


咀嚼しかねていた時のヒントは二つ。

ひとつは、とある方のブログページ。
この曲がそもそもは、映画のオープニングテーマであることを教えてくれた。
曲があって映画にあてられたのではなく、あきらかに映画があってこの曲が作られたのだと思う。

もうひとつは、忌野清志郎。この国の生んだ今は亡きギタリスト・ボーカリスト・ロックンローラーの思想は、結構マイケルとつながっている部分が多いと思う。だって、音楽ってそういうものだろう。旋律に、思いを乗せて、ひとの心を動かすためにあるものだから。
だから、支配したいと思う側も利用しようとするし、禁止しようともするのだ。

この二つの助けがあって、なんとか言葉になったのがこの歌。



彼の思いを引き起こした、彼の見たものは、まぎれもなく彼が体験した世界であり、今の私たちの世界につながるもの。
そこに対する理解と好意的な関心。まずは少々長くなろうが、その話から始めざるを得ない。それがこの曲に込めた彼のメッセージを受け取りには、絶対不可欠だと思うから。


スパイク・リーはマルコムXなど作品や、その言動で、人種差別問題を世に問い続けた黒人監督。They don't care about us のPVも彼の作品。
そしてこの曲はスパイク・リー監督の1996年の映画「get on the bus(そのバスに乗れ)」のオープニングテーマ曲。映画は、黒人による大規模デモ「ミリオン・マン・マーチ(百万人大行進)」に参加しに行く人々を描く。ミリオン・マン・マーチは1995年10月16日の出来事で、映画はそのちょうど1年後、1996年10月16日に封切られた。

このミリオン・マン・マーチはルイス・ファラカンの呼びかけにより、ワシントンD.C.のナショナルモールに賛同する大勢の人(40万人とも、それ以上とも)が集まった一大アクション。ナショナルモールといえば、1963年にキング牧師の"I have a dream!"の演説が行われたところ、歴代大統領が就任演説したりもする。アメリカ人にとって、何か、を訴えるときの象徴的な場所なんだろう。

そしてミリオン・マン・マーチを主導したルイス・ファラカンはブラックムスリム(黒人回教徒)組織の「ネイションオブイスラム」のリーダー。ネイションオブイスラム、はイスラムとはつくけれど、アラブ系のイスラムとはまたまるで違う新興宗教のような扱いらしい。1930年米国発祥、モハメド・アリも加入し、マルコムXもその発展に大いに貢献した。途中一度分裂してるのだが、ファラカンは本体の穏健化に危機感を抱いた急進派側の分派のリーダー。

そんな人物に"Get on the bus”と呼びかけられて、ワシントン行きのバスに乗った。映画はそんな人たちの物語。


同じ理想を目指して、連帯、をデモすべきアクションなのだろうと思うのだけれど、そこへ向かう人々はしかし、全く連帯していない。あちこちで「違い」を見出しては混迷していく。分断していく。そもそもミリオン・マンの名の通り、このデモ自体、参加は黒人「男性」のみ。途中で当然、道中で逢った女性は冷たい態度。そして途中のトラブルで交代したバスの運転手がユダヤ人だったことでまたひと悶着、、、どこまでいっても救いのない状況が続く。

そしてバスにのった登場人物たちは、誰も結局デモには参加しないで終わる。乗客の一人の心臓発作に付き添って病院に行き、間に合わなくなってしまうのだ。だけど、そこで初めて、バラバラ、ぎくしゃくの乗客たちが一つにつながっていく、、、、。映画はそんな結末を見せる。


さて、そんなストーリーの幕開けに流れる、優しいマイケルの、だけどかなり戦闘的に紡がれる言葉から、一体何が読み解けるだろう?


No sense pretending its over
終わったふりなんて意味ないさ
Hard times just don't go
つらいときはただ黙ってれば
過ぎて行くわけじゃない


自分に降りかかった困難なのに、見て見ぬふりをして、逃避しようとする「君」に、優しく、だけど言葉は強く、きちんと向き合えと諭す言葉。

何か困難が降りかかっていたり、何かつらい状況にあるときに、もう終わった、なんて振りをして何もしないでいたって、そんなの意味がないことさ。黙っていたって事態は変わらない。君が期待しても、困難はただ過ぎ去っていったりしない。

You gatta take that chip off your shoulder
理不尽には立ち向かうんだ
It's time you open up
始めるときさ
Have some faith
覚悟を決めて

この辺の表現が、この歌詞がとても攻撃的だと感じた理由。

最初の一文は英語独特の言い回しなのでニュアンスの出せる日本語に変更。
take that chip off your shoulderは文字通りは肩についたチップ(木くず)を払う、という意味。
a chip on your shoulderで不当に扱われている、という悔しい思い・いらだち・怒り・その原因という意味。have a chip on your shoulderいえば、不公平に扱われた・故なく不遇に扱われている、と思ってずっと怒りを抱えた状態。
それを抱えこんでじっとしていないで、自分でその原因を取り払わなくちゃだめだ、つまり理不尽な扱いを受けたら自分でそれに立ち向かえ、と言っているのだ。

open up は、広げる、開拓する、なんて意味もあるけど、ここでは射撃・砲撃を開始する、の意味だと思う。前の文章と合わせると、自分を虐げてくるものに対して、きちんと反撃しろ、という感じに聞こえる。最初は「戦闘開始」くらいでもいいかと思ったのだけれど、やはり曲調を考えるとちょっと強すぎるので表現を緩めた。

Have some faithのfaithは信念。自分が信じて疑わないもの。someは、ここではすごい・大した、意味だと思う。結局、戦いの中でもぶれないだけの強い思いを持て、という意味だと思うので、ここではこんな訳で。

この3行、「大きな信念をもって、降りかかる不当な扱いに対する戦いを始めるんだ!」という結構強いセンテンスなのだ。

Nothing good ever comes easy
いいことは簡単には起こらないけど
All good things comes in due time
来るべく時にやってくる
Yes it does
そうさきっと


Nothing good ever comes easyは「簡単にやってくるいいことはない」 everは強調。
All good things comes in due time、due timeは締め切り、来るべきとき、くらいなイメージ。すべての善きことは来るべき時にやってくる。
it does は 前の文を強調してるだけ。it = all good things、does = comes in due timeだと思う。

ここ3行は、なかなか結果は出ないかもしれないけど、時が熟せばきちんとやってくる、そう信じてやっていくんだ。そんな感じ。

You gotta have something to believe in
信じるに足るもの心に抱いて
I'm telling you to open your mind
だけど心は開いておいて


belive in は(価値があると)信じる、something to beleive in で faithと同じような意味だと思う。ぶれないだけのしっかりした考え・信念をことこに持つんだ、と説いているのだ。

mindは日本語だと心、と訳されることが多いけど、どっちかというと論理的な考えではない思考、感情に基づいた思い、という感じ。だから、open your mindだと「もっと自由に考える」「いろんな意見、考えに目を向ける」、というニュアンス。偏見に捉われたり、視野狭窄に陥ることなく、柔軟に考える、ということだろう。I'm tellng you のtellは結構強く言う、というニュアンスだと思う。

たとえ信念を持っても、視野の狭い考えにとらわれず、常に柔軟に・自由に考えていかなくちゃだめだよ、というメッセージ。柔軟に考える、のところに、I'm telling、僕はこれだけは言っておくよ、というような強い思いがこもっている。

映画の背景を合わせると、彼の心が、伝わる気がする。もしかすると、そうではない世の中に対する彼の悲しみも。

Gotta put your heart on the line
勇気をだして、怖くても
If you wanna make it right
なんとかしたいと思うなら
You've got to reach out and try
はじめてみるんだ、やってみるのさ


pur your heart on the lineは、最後までどんな言葉がふさわしいかで悩みつくした。
on the line は ギリギリ、というイメージだろう。文字通り境界線の真上、という感じなのだと思う。なんの境界線か、といえば、重大な運命を分ける、そこを超えるかどうかで結果が正反対にかわるような境界線、内側なら大丈夫だけど外側にでたら、、、、ということだ。put your life on the lineなら、自分の人生・生死をその境界線上に置く、なので、「命を懸けて」になる。
だけどここで境界線に置かれているのはlife ではなく heart、心臓・心。まあ、心臓が止まればどっちみち命もないのだけれど、命がけ、というよりは、どきどきとして心臓が限界を超えそうなシチュエーション、これ以上行ったら恐怖感で心臓が持たない!というようなイメージだと思うので、この訳にした。
怖いだろうし、足もすくむだろう、だけど、そんなぎりぎりの恐怖に耐えるんだ。言いたいことはそういうことだと思うので、この訳。ここのインスピレーションは忌野清志郎さんから。

make it right は正しくする。itはぼんやりと、状況、くらいの意味。正しくする、なんだけど、何が正しいのか、どういう状況なのか、それが明確に見えているわけではないのだろうと思う。だからこの訳。

reach out は状況に着手する、手を差し伸べる。だからここでは「はじめる」、にしてみた。

Gotta put your heart on the line
勇気をだして、怖くても
If you wanna get it right
なんとかしたいと思うなら
Gotta put it all on the line
きみのすべてをかけていけ


You see yourself in the mirror
鏡に映った自分を見ても
And you don't like what you see
それが好きだと思えないのなら
And things aren't getting much clearer
曇った景色が晴れてかないなら
Don't you think it's time you go for a change
変化を追って動くときだと
君は思わないのかい?


自分で自分を好きだと思えない。自分に自信を持てない。この状況はいつ変わるんだろう?どんよりしたこの状況が晴れていく気配は一向に見えない。もしそんなことになっているなら、もう変えるべきときだ。変えるために動く時だ。君はそうは思わないのか?

go for a change はただ変化するではなく、go for、変化を求めて自分で能動的に動くイメージ。

Don't wast your time on the past, no no
過去にかまけて時間を無駄にしないで
だめさ、だめさ
It's time you look to the future
未来を見据える時だから


Don't wast your time on the past は過去に君の時間を浪費するな。過去に起きた出来事に捉われ、そこからでてくる恨みや憎しみ・後悔・哀しみに捉われて、自分の時間を無駄に、つまりは行動しないで浪費するな、とうことだろう。
それよりも、この先をどうしたいのか、今は未来を見るべきときなのだから。

この辺にも、なかなかうまくいかない、分かり合えない状況へのもどかしさと、それを乗り越えてほしいという彼の祈りを感じる。

It's all right there if you ask
君が望めばそれでいいのさ
This time if you try much harder
今回君が必死にやるなら
You'll be the best that you can be
最高の君になれるだろう


askは頼む、求める。
もし今回君がmuch harder、いままでよりももっともっと一生懸命挑戦するなら、
you'll be the best that you can be、君がなりうる最善に君はなることができる。

今はつらい状況にある。それは今までの行動では不足だということ。だから、もっともっと頑張るしかない。でももし、今回そうやってもっともっと頑張るならば、君は君のなりうる最高の君になることができるよ。

Gotta put your heart on the line
勇気をだして、怖くても
If you wanna make it right
なんとかしたいと思うなら
You've got to reach out and try
はじめてみるんだ、やってみるのさ
Gotta put your heart on the line
勇気をだして、怖くても
If you wanna get it right
なんとかしたいと思うなら
Gotta put your heart on the line
勇気をだして、怖くても


If you wanna make it right
なんとかしたいと思うなら
And you wanna do it now
今やりたいと思うなら
Then you gatta learn to try
挑戦する君にならなくちゃ
And you can make it right somehow
そしたらどうにかやり遂げられるさ


you gatta learn to tryは試すことを覚えるべき。leanは覚える、身に着ける。つまり挑戦してみる、ということが自分の一部になっている、という感じなので、この訳。


No things in life comes free
タダで手に入るものなんて人生にない
And that's not just so easy now
簡単なことではないさ、でも
You gatta go for what you want
望むものなら取りに行け
You gatta know you got to stand for
君の守るべきものを知るべきさ


ここは出回っている歌詞にかなりバリエーションがあるところ。
ヒアリングに全然自信はないけど、私にはこう聞こえる、という歌詞で。
一行目、一番出回っている歌詞はLet love comes freeなんだけど、私にはどうしてもこうは聞こえない。

最後の一文が、本当に重い。そう思う。
ここの一番出回っている歌詞は、you gatta do what you go to do(君は君のなすべきことをなすんだ)らしいのだけれど、
私にはこう聞こえる。少なくとも standは聞こえるし、このほうが彼のメッセージらしい。
ただ、バージョン違いで歌詞が変わってるのかもしれないとも思う。

stand for は意味する、象徴するのほかに、〜のために戦う、という意味がある。今回はこれじゃないかと思う。
ただ、ここ、stand for じゃなくて、stand byかもしれない。それだと寄り添う、になる。
それでもまあ、守るべきもの、というニュアンスは、かわらない。
got to はしなければならない。



理不尽な目にあっているのに、黙ってやり過ごそうとなんてしてたらだめさ。
何とかしたいと怖くっても立ち向かうんだ。ぶれないだけの信念を心にきっちりと固めてね。
だけど凝り固まらないように注意して。
君は何のために戦うの?戦うべきものを間違えないで。
本当に守るべきものを、間違えてはだめだよ。


訴えかけているのは、そういうメッセージなのだと思う。
弱いもの、虐げられたもの。
怖くても動かなくては始まらないけど、動いてもそこに立ちはだかる障害。
Open mindで違いを受け止めつつ、本当に守るべきものが何なのかを外さず。
乗り越えるためにはそれを忘れないで。

そういうメッセージを踏まえてみると、この映画、このアクションに向けた、彼の哀しみ、慈しみ、そして祈りを感じる気がする。

この曲は虐げられて立ち上がった人々に向けた、彼のメッセージなのだと思う。
それは、決して古くなく、人種差別だけでなくさまざまな場所で、
なんとかしたい人に共通するものなのだと感じる。


1995年のミリオン・マン・マーチ自体、動員は成功したけれど、のちの評価は必ずしも賛美で終わらないアクションなのだ。一体何のため?何を変えたの?なぜ男性だけ?憎しみを増長させただけでは?といったあたりで後の評価もネガティブなものも見受けられる。

だけど、その後何周年かになるたびに、家族が参加し、女性が参加し、様相はすこしづつ変わってはいるようだ。

彼の祈りは届いたのだろうか。
そして、彼の祈りを私たちは活かせるだろうか。
決して他国の話、で終わるメッセージではないと感じる。


参考にさせていただいたページ:
https://nikkidoku.exblog.jp/13134920/







posted by LightWing at 17:28| Comment(2) | その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
リンクありがとうございました 。

私のブログでは、 マイケル作詞のみ載せていて、
ベイビイフェイス作詞のこの曲の和訳はしていなかったのですが、
大好きな曲なので、訳詞していただいて嬉しいです。

マイケルが歌えばどんな曲も、彼のものになってしまうわけですが、
マンミラもオンザラインも、他人がMJを想って書いた曲の方がわかりやすく
「マイケルっぽい」んですよね。

Posted by yomodalite at 2018年10月10日 11:35
yomodalite様

コメントありがとうございます。ブログ、大変参考になりました。

そうですね。彼自身の手による歌よりも、それ以外の歌のほうがわかりやすい気がします。多分メッセージがシンプルなのでしょうね。

それでも、彼が存命中のリリース作品は、すべて彼が納得し、彼が命を吹き込んだもの。きっと作詞者の思いを下敷きにしつつも、彼なりの解釈・メッセージが加わっていると思います。なのでここでは彼の言葉、としてとらえています。

そして、大変拙いながらも、できるだけ、その思いとか、祈りとか、なにより愛をくみ取って、彼が語りかけてくるとしたらどんな言葉になるだろうかを考えるようにしています。

訪問者の多いブログではなく、自分の理解のために書いている部分も大きいですが、それでも何人かでもそうした思いに意識を向けて下さる方が増えたら、、、、と思います。

Posted by LightWing at 2018年10月15日 00:28
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