2013年06月19日

SCREAM(1995年)

莫大な費用をかけたモノクロームのPV。この曲でマイケル・ジャクソンは珍しく妹のジャネットと競演している。マイケル・ジャクソンの恐ろしく切れのよいダンスと、ジャネットのはじけるようなダンスが魅力的。けれど、POPな表現と裏腹にこの曲にぶつけたマイケル・ジャクソンの怒りは苛烈。

この曲も1993年の幼児への性的虐待疑惑による衝撃的かつ屈辱的な彼の経験を踏まえた告発である。よく聞けば、これが決してメディア批判などにとどまらないことが解る。この曲も、They don't care about usに連なる、顔なき群集の暴力による人権蹂躙への強烈な告発であり、曲には They don't care about usに通じるモチーフが見て取れる。

以下MJはマイケルのパート、Janetはジャネットのパート。
今回から同じような歌詞の部分は訳は省略。

written by Michael Jackson, Janet Jackson

(MJ)
Tired of injustice, Tired of the schemes
でたらめはうんざり 陰謀はうんざり
Kinda disgusted, So what does it mean, damn it
まったくむかつく だからなんだってんだよ、くそっ


injustice は文字通りには「不正義」。しかし、「正義」という言葉は使いたくなかった。なぜなら正義の基準は曖昧であり、それが故に、「正義」という言葉自体が、正義の基準から外れたものを強烈に排除・弾圧しようとする非寛容を伴いやすいからだ。この非寛容性こそ、愛 の対極であり、「正しい市民」を装った暴力の大儀名分となるもの。だから、ここでは「でたらめ」とした。結局そういうことなのだ。

schemeは企み・陰謀、用意周到に準備された計画。なんとなく形成される世の中の雰囲気、世論、噂、偏向報道。そうした背景には誰かの意図があってもおかしくはない。いや、背景となる何らかの意図があると考えるほうが普通ではないか。この世の中では、様々な思惑が絡み合っている。そうした駆け引き・有利不利の打算・計算、それは往々にして、汚い動機であることも多い。たとえ本人達には「正義」だとしても。

そして、こうしたschemeと見せかけの「正義」がくっつくことで、恐ろしい事態が起こる。もっと言えばもう一つ必要なのはThey don't care about usにでてくるdead head、考えない頭だ。この後の歌詞の通り、dead head と化した大衆が、見せ掛けの正義につけ込まれて非寛容を発揮し、憶測やデマを元にいい加減な内容を広めることで、巧みに操作された世論や雰囲気の形成の一部となって、恐ろしい事態を招く。実際にはそれは自分達の破滅を招くとも知らず。

本当の不正義はいつも、正義の顔をしてやってくる。見せ掛けのjusticeの非寛容にschemeが漬け込まれたとき、injusticeは正義の名目のもとにはびこるのだ。

次のフレーズは人により、The lies are disgusting、directed at me(俺に向けられた嘘、むかつくんだよ)としている場合もある。そのほうが意味は明確だと思うけれど、そう聞こえなかったのでこっちの歌詞にしている。もっともヒアリングにはあまり自信はない。

So what does it meanは、もっと深刻、意味深に「それが何を意味するのか」という問いかけにも取れる。そう、考えなしにいろいろといっている「you あなた達」には、自分のやっていることがわかっているのか?injustice、scheme、そうしたもの手先となっているのがわかっているのか、という痛烈な問いかけにととることもできる。

最後の2wordははっきり聞こえるが、普通歌詞には表記されない。

Kicking me down, I got to get up
蹴飛ばされたって 起き上がってやるぜ
As jacked as it sounds, the whole system sucks, damn it
聞いたとおりの壊れたテンション 仕組み丸ごとイカれてやがる、畜生


jackedはasに挟まっているので形容詞。badと同じくすごい、かっこいい、というニュアンスもあるけど、酒・麻薬・強烈な刺激などでハイになっているという意味もある。どっちもスラング。強烈な体験で、叫びだしそうになっている自身の描写と捕らえてこう訳した。

sucksは駄目になってる、イカれている、といった感じのスラング。辞書にでてこないけど、映画なんかでバシバシでてくる。名詞にしてsuckker(駄目になった人・モノ、ポンコツ)などもよく使う。

dead headと偽のjusticeの非寛容につけこんだ schemeが作る世の中の仕組み、そんなの丸ごと腐ってる、狂ってる。激しい怒りの告発である。

(Janet)
Peek in the shadow, come into the light
影から様子を伺うなら、日のあたるところにでてきなさいよ
You tell me I'm wrong, then you better prove you're right
私が間違っているというなら あなたの正しさを証明することね
You're sellin' out souls but I care about mine
あなたは魂を売り渡してるけど、私は自分のはもっと大事にしとく
I've got to get stronger and I won't give up the fight
強くならなきゃ、そしてこの戦いは止めないわ


ここで、強い妹登場。schemeを仕掛ける者、顔無き多数の暴徒と化した大衆に、「こそこそしてないで正正堂堂と姿を見せなさい!人非難する前に自分の正しさを証明しなさい!」と一喝。

そう、考えれば、きちんとよく考えれば、どっちが正しいのか、間違っているのかは、わかる。しかし、それと向き合うことをしないほうが、当面の紛争を避けられたり、考えなくてすむ、目先の苦痛を味わわなくてすむ。そうしたことを私達は知っている。だから、魂を売り飛ばして、易きに流れる。けれど彼女は、「自分はそんなことはしない、もっと強くなって戦い続ける」、と力強く宣言するのだ。

(MJ)
With such confusions don't it make you wanna scream
こんな混乱でも君たちは叫びたくならないのか?
Your bash abusin' victimize within the scheme
陰謀の中、君たちの暴力的な非難が犠牲者を祭り上げる


「こんなでたらめな世の中で、なぜ君達は叫びだしたくならずにやっていけるのか?」という問い。答えは簡単だ。目をつぶっているか、考えていないからだ。そしてそうした人々が、陰謀に乗っかって、正義のもとに痛烈な断罪を行い、犠牲者を作り出す。それをやっているのは「your」あなた達だ、と警告しているのだ。

忙しい、自分は無関係。様々な理由をつけ、自分を安全な場所において(正確にはおいたつもりになって)、行う様々な断罪。それは人を傷つけ、しいては自分達の自由を奪っていく。多かれ、少なかれ、身に覚えがある人のほうが多いはず。

(Jannet)
You try to cope with every lie they scrutinize
あなたたち、精細に調べられて全部の嘘をちゃんとつこうとするのね。


この訳は難しい。youは、考え無しに使われている人たち、theyはschemeを仕掛けた側だろう。大衆は、(おそらくは操られているとも思わずに)しくまれた嘘全部を(しかけた人の思惑通りに)ついていこうとする。それを皮肉っているのだ。

scrutinizeは綿密に調査する。そしてすべての「嘘」はschemeを仕掛けた側が周到に監視している。

(MJ&Jannet)
Somebody please have mercy 'cause I just can't take it
誰か思いやるってこと示してくれよ、俺はそれに飢えているから


please have mercyは「お願いだから」「後生だから」といった訳が当たることが多い。また、take itは、「耐える」の意味がある。そのまま訳すと、「お願いだ、俺はもう耐えられない」になるのだが、ここではそう訳さず、mercyを本来の「慈悲」の意味にとり、take itのitをmercyととった。

情け容赦の無いバッシング、非難に欠けているものは「思いやり」。それがまさに「僕」が今受け取れないもの。そうとるのが、曲全体の文脈としてより言いたいことを表しているように思ったのだ。

(MJ)
Stop pressurin' me, Just stop pressurin' me
俺を押さえ込もうとするな、俺を抑圧するんじゃない
Stop pressurin' me, Make me wanna scream
俺を押さえ込もうとするな、絶叫したくなる
Stop pressurin' me, Just stop pressurin' me
俺を押さえ込もうとするな、俺を抑圧するんじゃない
Stop pressurin' me, Make me just wanna scream
俺を押さえ込もうとするな、絶叫したくなる


puressureの日本語訳は難しい。適切な訳を見つけるには、背景の考慮も必要と感じている。
また変えるかもしれない。

(MJ)
Tired of you tellin' the story your way
お前らの勝手な作り話にはうんざり
It's causein' confusion, You think it's okay
こんがらがるんだよ、でもお前らはそれで構わないと思ってる

(Janet)
Keep changin' the rules while you're playin' the game
ゲームの途中で続くルール変更
I can't take it much longer, I think I might go insane
そう長くはもたない、私は狂ってしまう気がする


まじめに対応しようとすると、新たな価値基準を持ち出してきて、それを無に帰する。そんな中で長くやっていけるとは思わない。人はそんな中では狂ってしまう。そいういう警告。

(MJ)
With such confusion don't it make you wanna scream
こんな混乱でも君たちは叫びたくならないのか?
Your bash abusin' victimize within the scheme
陰謀の中、君たちの暴力的な非難が犠牲者を祭り上げる

(Janet)
You find your pleasure scandalizin' every lie
あなたたち、すべての嘘をスキャンダルにでっち上げて楽しむのね


嘘をスキャンダルとして取り上げて、楽しそうに噂する人々への皮肉。

(MJ&Janet)
Oh father, please have mercy 'cause I just can't take it
ああ、神よ、どうか慈悲を、僕はそれに飢えているから

(MJ)
Stop pressurin' me, Just stop pressurin' me
俺を押さえこもうとするな、俺を抑圧するんじゃない
Stop pressurin' me, Make me wanna scream
俺を押さえ込もうとするな、絶叫したくなる
Stop pressurin' me, Just stop pressurin' me
俺を押さえ込もうとするな、俺を抑圧するんじゃない
Stop fuckin' with me, Make me wanna scream
俺を侮蔑するな、絶叫したくなる


最後の行の単語はカットされていることが多い。This is itの中でも、聞こえないように加工されていたと思う。歌詞でも隠してあるものが多い。けど、それは返って触れてはいけない何か、がそこにあることを際立たせ、私には、まさに彼が訴えたかったもの、この曲だけでなく、様々な曲に一貫して、痛烈に批判した思考停止への、ものすごく皮肉な実証になっている気がしている。

(Janet)
"Oh my God, can't believe what I saw
As I turned on the TV this evening
なんてこと、信じられないわ。今夜テレビをつけたときに見たこと。
I was disgusted by all the injustice all the injustice
なにもかもがでたらめ、なにもかもがでたらめ、吐き気がしたわ。

(MJ)
All the injustice
ぜんぶでたらめ、、、。


ジャネットのささやくような台詞。おきてることがでたらめ、流れている論調がでたらめ、あるいは後ろにある考えがでたらめ、、、、ひとごとだといえるだろうか。

(アナウンサー)
"A man has been brutally beaten to death by Police
after being wrongly identified as arobbery suspect.
The man was an 18 year old black male..."

男性が強盗事件の容疑者に間違われ警察官に撲殺されました。
被害者は18才の黒人男性であり、、、


ここで、でたらめ、の一例と思われるニュースが流れる。男性アナウンサーの声が伝える酷い話。背景にあるのは人種差別、偏見。ところで、このニュースの部分、昔確かに聞いたと思ったのだが今さがしても見当たらない。なんなんだ、、。

(MJ)
With such collusions don't it make you wanna scream
Your bash abusin' victimize within the scheme

(Janet)
You try to cope with every lie they scrutinize

(MJ)
Oh brother please have mercy 'cause I just can't take it
なあ、きみ、思いやりってものを示してくれよ、俺はそれに飢えているから

Stop pressurin' me, Just stop pressurin' me
Stop pressurin' me, Make me wanna scream
Stop pressurin' me, Just stop pressurin' me
Stop pressurin' me, Make me wanna scream
Stop pressurin' me, Just stop pressurin' me
Stop pressurin' me, Make me wanna scream
Stop pressurin' me, Just stop pressurin' me
Stop pressurin' me, Make me wanna scream


曲調はThey don't care about usよりよほど軽快。しかし口調や使われている言葉は非常に汚く、表現は苛烈を極める。それほどにマイケル・ジャクソンの怒りは激しい。「常識的な市民」には理解されえぬほどに。理解されないのは、多分この世の中で叫びださずにいられる原因と同じ。目を閉じて無知でいること。自分の考えを持たぬこと。


こんなにも苛烈な表現にも関わらず、やはりこの曲で唄っているのは「愛」だと思う。正義の顔してやってくる不正義を見分けられる方法は、そこに「愛」があるかどうか。自分がどう思うか、はまず必要なことだけれど、人 であるなら、その次に「相手はどう思うか」を慮る必要があるはずだ。それが愛、つまり相手の幸せを願う心。

きちんと良心と向き合えば、何かおかしい、とわかるはず。そこで目をあけ、考える。その繰返しが世の中を変えていく、無用な争いから自分達の周りを、そして世界を癒して行く。それがマイケル・ジャクソンの訴えたかったものではないかと、曲を訳すたびに思う。

参考にさせていただいたページ:
マイケルの遺した言葉/マイケル・ジャクソン氏の歌詞の日本語訳詞集
マイケル・ジャクソン傑作選(3) スクリーム/Scream(対訳つき)
posted by LightWing at 23:53| HIStory | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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