2013年05月31日

HIStory 歴史:彼の物語 (1997年)

※記事タイトルは発売時邦題ではなくオリジナル訳

ランダムに行く。まずは HIStoryから考えてみる。

マイケル・ジャクソンのメッセージはいくつかの代表的な歌に集約される気がする。これは間違いなくそうした歌の一つ。アルバムHIStory の題名として使われた曲、またワールドツアーの題名でもある。

タイトルはHISが大文字。HIStory は historyと HIS story のダブルミーニング、歴史を作る、とある「彼」の物語。「彼」は多分マイケル・ジャクソン。そうありたいと彼は望んでると思う。

written by Michael Jackson, Jimmy Jam and Terry Lewis
He got kicked in the back
He say that he needed that
He hot willed in the face
Keep daring to motivate
He say one day you will see
His place in world history
He dares to be recognized
The fires deep in his eyes

背後から蹴飛ばされても、
それは必要なことだったんだと彼はいう
彼の顔は決意で火照る。

その決意、鼓舞するため、
大胆であり続けろ。

彼はいう、
いつか君は僕のしたことが
世界の歴史になるのがわかると
それを証明するために、
あえてやっているのだと。
彼の瞳は深く燃えてる。


この世界は今、ただあるのではなく過去の歴史につながっている。今を支えるのは過去の歴史、未来をつくっていくのは今。

人として尊重されることも、権力者に問答無用に殺されることを(少なくとも表向きには)糾弾できることも、黙っていてそうなったわけじゃない。差別は当たり前だった時代は長い。殺されることが何でもない時代も長い。こうした時代は、実は終わっていないのだけれど、少なくともそれが「人の権利侵害だ」と言い切れる今がある。そして今の世界がここにくる過程には悲しい出来事がたくさんあった。その過去の悲壮な犠牲を経て、自由も人権も勝ち取ってきたものだ。

渦巻く悪意に打ち勝って、人がよりよい世界をつくるためには、そんな立場も必要なのだと、自分はあえて未来のために、そういう礎になるのだと、虐げられていながら、悲壮なまでの決意をした、これは 「彼」の物語。そうした「彼」が次の世界を拓くのだと、マイケル・ジャクソンはそういっているのだ。
How many victims must there be
Slaughtered in vain across the land
And how many struggles must there be
Before we choose to live the prophet's plan
Everybody...

幾多の犠牲が必要なのか。
空しい虐殺に覆われる地に
幾多の抵抗が必要なのか。
預言された未来に生きると僕らが選択するまでに。
いったい、、、

そんな「彼」をよそに、それでも人は虐殺を続け、犠牲を出し続けている。そんなところで一体、どれだけの「彼」が必要なのか。どこまでも悲壮な決意を語る「彼」を前にした、これは「僕」の悲しみのパラグラフ。in vainは「無駄に終わる、空しく終わる」。無駄に終わるのは彼の試み、虐殺への抵抗だろう。

prophet's planは、予言ではなく、預言、つまり神から預かった言葉の意味、神が示した理想の世界のことだろう。そうした未来を人間が自ら選択できるようになるまでに、いったいいつまでこのようなことを続けるのか、そう「僕」=マイケル・ジャクソンは問うている。問うている先はこの世界の、「彼」以外のすべて。つまりこの曲を聴いている「私」。マイケル・ジャクソンにとっての「あなた」。

everybodyは呼びかけでもあり、僕のため息にも思える。

マイケルがかつて属していたエホバの証人の世界観では、世が乱れに乱れた後に、黙示録の世界を経て、1000年の楽園が神によってもたらされるとされているそうだ。けれど、すでにここに記された言葉には、未来は神ではなく、人々の選択によって創出される、というマイケルの世界観が見て取れる。理想の世界は神によって示されているけれど、それを選び取るのは人間一人一人の行動である、そうマイケル・ジャクソンは考えているのだと思う。

つまり、ここに描かれた世界観では、すべては人間の自己責任。

これは、神によって強制的に地獄や天国がもたらされる、というよりも、もっと実は厳しい世界だ。ただ待っていても天国は決してこない。そしてどんなに神を信仰しようとも、地獄はもたらされてしまうのだから。

けれど、同時に大きな希望でもある。人の選択で、すばらしい未来は実現すると言っているのだから。
Every day create your history
Every path you take you're leaving your legacy
Every soldier dies in his glory
Every legend tells of conquest and liberty

毎日が君の未来を作る
君の進んだ道が君の物語を紡いでゆく
すべての兵士は己の信じるもののために死ぬ
すべての伝説は征服と自由をものがたる

このパラグラフは、人間が自らそのすばらしい未来を実現するための希望を、高らかに歌い上げる部分だろう。毎日、毎日の一人一人の選択が未来を創っていくのだと。すべての戦っているものは、自分の信じるもの、自分が守るべきもののために死んでいくのだ。過去の伝説は、征服されそこから自由になっていくことを教えてくれる。

この曲は、解釈が難しく、見解が分かれる曲といわれる。見方によっては戦争肯定、自由のために国家を背負って戦うことを奨励しているように見えるからだ。それがマイケル・ジャクソンのほかの曲での世界観の中で、かなり異質に感じられるのだ。

私は思う。マイケルのいう戦う、は、いわゆる戦争の肯定ではない。戦争は、国家間の縄張り争い。これは他の歌で明確に書かれている。マイケル・ジャクソンはそれには否定的だ。

そうではなく、むしろそうした国家を盾に抑圧しようとするものも含めた人の自由を縛るものから、自らの信じるところを守るために戦う話だと思う。それは本当に独立戦争の場合もあるかもしれないが、そうでない場合のほうがおそらく多い。国家が行う戦争であっても、それが自分の愛するもののためであるならば、戦う。けれど、それはあくまで、戦うものの自由意志に基づいての戦いであり、しばしばその戦いは、自らの国家からの抑圧を相手にすることもある。そういうことだろう。マイケル・ジャクソンはこのあとの歌詞で、誰にも君を屈服させるな、と歌う。もちろん、国家権力にも、だろう。そう考えるのが自然だ。

マイケル・ジャクソンは子供のため、未来のためには、戦え、と言っているのだ。それが、歴史のための礎になるといった、冒頭の「彼」の思いである。人の尊厳を守るため、大好きな子供たち、愛する子供たちのために、未来をつくるためにならば戦う。それがマイケル・ジャクソンが愛を語る天使から、荒ぶる戦士の顔になる意味だ。

そして、注目すべきは”HIS Story”の中にあって、このパラグラフの主人公は you であることだ。「彼」の物語を聞いている、無関係だと思っている「あなた」の選択も、間違いなく未来をつくっている。内紛の国は、なぜ内紛になっているのか?このグローバルな世界にあって、単独でなにかが起きるわけではない。さまざまな国家間の思惑が絡み合った結果なのだ。

そして、それを許すのは、実は一人一人の小さな行動であったりする。小さな不正を見逃し、小さな搾取を見逃し、一人一人の小さな行動は、それとしらないうちに大きな悪意に集められ利用されていく。例えば、フェアトレード、という言葉がある。児童労働などで採算地を搾取したものを買わない、という消費者運動だ。チョコレートにも、コーヒーにも、現地の子供たちの涙を糧にしてきた歴史がある。それを許すのはそれを買う消費者なのだ。おかしなこと、不正なことは、声を上げずにいたり、無関心であったりするうちに、広まっていく。それにあらがうためには、ひとり一人が自分の物語を紡いで戦っていかなくてはならないといっているのだろう。ひとりひとりの勇気ある、熟慮の上の選択が、未来を創っていくのだ。
Don't let no one get you down
Keep movin' on higher ground
Keep flying until
You are the king of the hill
No force of nature can break
Your will to self motivate
She say this face that you see
Is destined for history

誰にも君を屈服させるな。
のぼり続けるんだ、高みを目指して
飛び続けるんだ、丘の上の王となるまで
自らの意思に基づくならば、どんな嵐も君をくじくことはない
君のみたこの光景が、歴史を作ると女神はいう。

誰かからの強制ではなく、自らの信念に根ざした、内的・自発的な動機に基づく行動であれば、決して誰もそれを止められない。このパラグラフはそういってるのだと思う。結局そうした行動が一番強い。

King of the Hill は1993年のソダーバーグの映画のタイトル。内容はもしかしたらこの歌に関係あるだろう、と思うのだけれど、直接の意味が取れない。King of hillは、狭い場所で偉ぶる者、日本語にも「お山の大将」という似たような表現がある。

force of natureは人間を脅かすような自然の脅威。修辞的にどんな困難があってもくじけない、といってるだけだと思うので、ここでは嵐、としておく。

「それが運命をきめる」、といっている主語のSheも理解しにくいが、HEで神なので、女神とした。この曲を歌うとき、マイケル・ジャクソンは「Liberty」と何度も叫んでいる。だとすればこの女神は、アメリカ人なら誰も思い浮かべる自由の女神なのではないか。

マイケル・ジャクソンが高らかに、そしてストレートに「愛」をうたうときには、ハイトーンで伸びのある美しい声を使うことがある。彼の華奢な体の線と彫りの深い中性的になった顔立ち、白くなった肌とあいまって、それが私には女神のように見える。「女神」は私にはそのイメージと重なるのだ。彼はそうした女神のイメージを心に抱いているのではないかと。そんなことも考えてみる。
How many people have to cry
The song of pain and grief across the land
And how many children have to die
Before we stand to lend a healing hand
Everybody sing...

幾多の人々が泣かねばならぬのか
悲痛な嘆きの唄が覆う地で
幾多の子供たちが死なねばならぬのか
僕らが癒しの手を差し伸べる前に
皆歌って、、、

Every day create your history
Every path you take you're leaving your legacy
Every soldier dies in his glory
Every legend tells of conquest and liberty
Every day create your history
Every page you turn you're writing your legacy
Every hero dreams of chivalry
Every child should sing together in harmony

All nations sing
Let's harmonize all around the world

毎日が君の未来を作る
君の進んだ道が君の物語を紡いでゆく
すべての兵士は己の信じるもののために死ぬ
すべての伝説は征服と自由をものがたる

毎日が君の未来を作る
君のめくったページが君の物語を綴ってゆく
すべての英雄は高潔を夢見る
すべての子供は声を合わせて歌うべきなんだ

すべての国で歌おう
世界中で声あわせよう


Every soldier dies in his glory は、日本人には「名誉の戦死」を思わせる(この表現に危機意識を失いたくないと思う)。この場合、普段何気なく使っている単語だが、私はこのhisに大きな意味があると思う。この曲は「彼」の物語。「彼」は強制されたのではなく、自らの意思で虐げらることへの抵抗に身を投じた。だからこそ「彼」は、「自らの」喜びのうちに死んでいくのだ。その意味を重く受け止めて、そして、その大切な意味を決して取り違えられないよう、ここの訳は「己の信じるもののために」とした。

これは次のchivalryにもつながっていると思う。誰も死にたいと積極的に思ったりはしない。「彼」だって本当はそうなのだろう。そこを私たちは決して忘れてはいけない。英雄は、自分の美学、自らの尊厳とその大切なものを守るためには毅然と立ち上がる精神を自分に課したいと憧れている。決して自分の野心や疚しい思いではない。それがchivalryなのだろう。こうした思いを踏まえ、ここでは、高潔としている。

そしてマイケル・ジャクソンの目指す世界では、子供は国境を超え、みんなで調和のうちに歌っているべき=平和に仲良く暮らしてるべきなのだ。世界は調和のうちにあるべきなのだ。

How many victims must there be
Slaughtered in vain across the land
And how many children must we see
Before we learn to live as brothers
And create one family oh...

幾多の犠牲が必要なのか。
空しい虐殺に覆われる地に
幾多の子供たちを目にしなくてはならないのか。
兄弟として生きることを僕らが学び、
一つの家族になる前に、、、

Every day create your history
Every path you take you're leaving your legacy
Every soldier dies in his glory
Every legend tells of conquest and liberty
Every day create your history
Every page you turn you're writing your legacy
Every hero dreams of chivalry
Every child should sing together in harmony

A soldier dies
A mother cries
The promised child shines in a baby's eyes
All nations sing
Let's harmonize all around the world

毎日が君の未来を作る
君の進んだ道が君の物語を紡いでゆく
すべての兵士は己の信じるもののために死ぬ
すべての伝説は征服と自由をものがたる

毎日が君の未来を作る
君のめくったページが君の物語を綴ってゆく
すべての英雄は高潔を夢見る
すべての子供は声を合わせて歌うべきなんだ

兵士は死ぬ
母は泣き叫ぶ
けれど、生まれたての子供の目には
未来の英雄が輝いている

すべての国で歌おう
世界中で声あわせよう


promised childは文字通りには契約の子供。「契約の地」と同じ用法で、契約されているのは「将来、それはあなたにもたらされる」ということ。だからpromised childは将来の救世主、キリストのことらしい。なので、今は兵士は死に、母が泣き叫ぶような世の中でも、生まれたての赤ん坊の目にはすでに次世代を担う英雄が映っている、未来の希望となっているよ、という意味にとった。マイケル・ジャクソンの不屈の希望を示す文章であり、子供たちにかける思いが見て取れる文章だと思う。


さて、HIStoryツアーのDVDは、なんとも後味の悪い演出が続く。まるで独裁者、ヨーロッパでは確実にヒットラーを思わせるような軍服のマイケル・ジャクソンが一糸乱れぬ大群の兵士を率いて凱旋門をパレードし、世界中の観客がその姿に熱狂する。鳴り響くヘリコプターの爆音、夜の闇を照らすサーチライト。現れたのは巨大なマイケル・ジャクソンの銅像(これは、HIStoryのプロモーションとして当時ヨーロッパ中に立てられたのだとか)。そしてMichael Jackson、HIStoryのタイトルバックがかぶる。まさに独裁者然として、マイケル・ジャクソンとしてはなんとも違和感のある演出。この辺が、戦争肯定ととられる由縁の一つだろう。

解釈の鍵は、コンサートの演出全体を捕らえることだと思う。、HIStoryと They don't care about usは1セットだと思われる。They don't care about usはコンサートの2曲目に登場し、その中でマーティンルサーキングを背景にHIStoryが1フレーズだけ唐突に挟まれている。そしてHIStoryの中にも They don't care about usが1フレーズだけ唐突に挟まれるのだ。

They don't care about usは力を持つものは、決して虐げられているもののことなど省みない、全く気にしちゃいないんだ、という痛烈な批判と告発、そして警告。己の信ずるところにより、それに命をかけて抗うのが、HIStoryを作る「彼」らなのだ。ならばこの独裁者が肯定されているはずがない。

軍隊を率い、銅像を建てる演出は、独裁者は熱狂的な国民の支持を得てやってくることを思い出させるための演出だとみた。ヒットラーは非常に高い支持率を得て政権を握った人物である。抑圧の権力は、決してわかりやすくやってくるのではなく、自由意志として大衆みずからに選択され、大衆の支持を背景に、巧みに抑圧を進めていくのだ。「彼」が武器を持つならば、その危うさはここにある。「彼」の純粋な思いは時として権力に利用され得る。もし、「彼」が望まなくても戦わなくてはならなくなったり、戦うことを望むよう強制されるなら、もうそれは彼の自由意志に基づく戦いではありえない。

HIStoryの中で彼は、一人一人の毎日が、一人一人の選択が未来を創る、と希望を描いて見せる。けれど、その選択は賢明かつ慎重に行わないとならない、自由意志だと思っているものが実は権力の仕組んだ巧みな罠であることがある。マイケル・ジャクソンはそういいたかったのだと思う。


HIStoryのコンサートでの演出では、最後に戦車から出てきた兵士は泣き顔になって崩れ、その肩をマイケル・ジャクソンが優しく抱く。これは何を意味するのか?

たとえ自らの信じるところを守るためであっても本来人は戦うために生まれたのではない。相手も人なのだ。本当は「彼」だって死にたくない、殺したくない。「冷静になれ、純粋な思いは、ときとしてそうと知らずに他の守るべきものを踏みにじっていることがある。」それをマイケル・ジャクソンは言いたかったのではないか。本当に思いを貫きたいなら、選択は賢明でなければならない。これがメッセージであるととれば、PVの軍服と銅像のマイケル・ジャクソンとも思いは重なる。

このシーンでマイケル・ジャクソンは、戦車の前に、そして武器をとった兵士の前に、自らは武器も持たず、ただ立ちふさがる。このシーンは天安門事件の立ちふさがる男が戦車の進軍を止めた衝撃的な映像を思い起させる。天安門事件のこの映像は、They don't care about us の刑務所バージョンの冒頭にも使われている。天安門事件は、民主化が進んでいると見えた中国で、政府が突然人民に牙を向いた事件であり、平和に見えた日常が突然崩された事件である。時代を逆行してる感覚をだれもが抱いたであろう衝撃的な出来事だった。その最中、スーパーの袋のようなものをもった、ごく普通の男が、天安門に向かい進軍する戦車の前に、買い物袋を両手にさげたまま、ただ、直立不動で毅然と立ちふさがるのだ。あまりの事態に動揺したのか、それは一瞬だけれど、確かに戦車を止めた。

マイケル・ジャクソンのいう、戦う、とはそういうことだ。彼は徹底して非暴力である。フィルムにもガンジーの映像が多用されている。この曲の歌詞も注意してみれば、「彼」が虐げられている記述はあっても、武器を取る描写はどこにもない。

この曲は決して戦争肯定ではない。まして国家のために武器をとることを奨励してなんかいない。マイケル・ジャクソンが、独裁者のように、己のカリスマ性をデモンストレーションする意味もない。

マイケル・ジャクソンは幼い頃から本の虫だったと聞く。また母親がエホバの証人であることは、哲学的な思索、宗教と人との関わりなども、幼いうちからいやおうなしに考えなくてはならなかった人生を彼に課すだろう。そうした様々を経て、マイケル・ジャクソンの知性・教養は高く、その言葉は深い。それを読み解くには、読み解く側も学び、考えることが必要だとしみじみ思う。もちろん、マイケル・ジャクソンの遺志を継ごうとするならば、なおさらだ。


参考にさせていただいたページ:
マイケルの遺した言葉/マイケル・ジャクソン氏の歌詞の日本語訳詞集
マイケルのメッセージ〜歌詞日本語訳集
posted by LightWing at 10:25| HIStory | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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